「うちの社員がうつで休職しているが、これは労災になるのか?」——こうした疑問を持つ人事担当者は増えています。精神障害の労災認定件数は2023年度に過去最多を更新しました。企業として正しく認定基準を理解し、適切な対応ができる体制を整えることが今、強く求められています。

過去最多を更新——精神障害の労災申請の現状

厚生労働省が公表した2023年度の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害(うつ病・適応障害・PTSDなど)による労災申請件数は3,575件(前年比802件増)で、支給決定件数(認定件数)は883件と、いずれも過去最多となりました。

認定された業種の上位には情報通信業・医療・福祉・製造業が並んでおり、業種・職種を問わず発生していることがわかります。認定理由のトップは「上司等からのパワーハラスメント」であり、ハラスメントが主要因として認定されるケースが増加しています。

企業にとって労災認定が持つ意味は大きいです。①社員への保険給付(休業補償・療養補償)が生じる、②企業の安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがある、③企業イメージ・採用力への影響がある、という3点を認識しておく必要があります。

「うちは関係ない」という認識は危険です。どの業種・規模の企業でも、長時間労働やハラスメントが放置されている状況であれば、労災認定のリスクは常に存在します。

精神障害の労災認定基準——3つの要件を理解する

精神障害が労災として認定されるためには、厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」(2023年改正)に基づき、以下の3要件をすべて満たす必要があります。

①対象疾病であること:うつ病・適応障害・PTSDなど、ICD-10に基づく精神障害であること。

②業務による強い心理的負荷があること:「業務による心理的負荷評価表」を使用し、発症前6ヵ月間の出来事が「強」に該当するかどうかが判断されます。2023年の改正でハラスメント(パワハラ・セクハラ・カスハラ)が評価表に明確に位置づけられ、認定の幅が広がりました。時間外労働が月160時間以上、または2週間以上の連続勤務なども「強」に該当します。

③業務以外の心理的負荷や個体側要因で発症したわけではないこと:離婚・家族の死亡・多額の借金など、私生活上の強いストレスが主因でないことが確認されます。

重要なのは、業務と発症の「相当因果関係」です。企業側が「業務は関係ない」と主張しても、客観的な証拠(残業記録・メール履歴・ハラスメント調査記録)が判断の根拠となります。記録の有無が認定の分岐点になることを覚えておいてください。

企業が今すぐ整えるべき対応と記録管理

精神障害の労災リスクを適切にマネジメントするために、次の4点を整備しましょう。

【労働時間の客観的記録の徹底】

タイムカード・PCログなどの客観的記録を確実に保管します。申請があった場合、この記録が認定・非認定の根幹となります。「本人が申告しなかった残業」も記録に残す仕組みを作ることが重要です。

【ハラスメント相談対応記録】

相談を受けた日時・内容・対応した措置を記録します。「迅速に対応した事実」が、企業の義務履行の証明になります。相談窓口に記録が残っていないことは、企業にとって不利な状況を生みます。

【産業医との連携】

休職者が出た段階で産業医と情報共有し、業務起因性の評価を事前に検討しておきます。労災申請が来た場合も、産業医の医学的見解が重要な参考資料になります。

【申請への適切な対応】

社員が労災申請の意思を示した場合、企業は申請を妨害してはなりません。証明書類の提供など、申請に必要な協力を誠実に行うことが法律上求められています。申請を理由とした不利益取扱いは、労安衛法・労基法に違反します。

明日からできることとして、「過去3ヵ月の時間外労働実績を確認し、月80時間超の社員がいないかチェックする」ことから始めてください。

まとめ

精神障害の労災認定は、企業にとって避けては通れないリスクです。しかし適切な記録管理・ハラスメント対策・産業医との連携を行うことで、未然防止と万が一の際の適切対応は両立できます。「うちでは起きないだろう」という認識を改め、記録と対話の文化を職場に根付かせることが、社員を守り企業を守ることにつながります。一人でも多くの方が安心して働き続けられる職場環境のために、産業医とともに一歩踏み出しましょう。